光の中 2





初めて河野と昼食をともにしてから、徐々に河野との会話が増えていった。

静希の中では未だに警戒心が強く、河野が一方的に喋っているという場面も多々あったが河野自身は気

にした風もなく、それが静希の性格なのだろうとすでに割り切っいるようだった。

静希の方は相変わらず和史に夜毎、抱かれる日々を送っていた。

河野と付き合いだして河野の圧倒的な存在感からか、自分の疎ましさが嫌になるほど身に染みて実感さ

せられた。

それと同時に、このまま河野の傍にいたいと思う自分もいることは確かだった。

父以外の存在が、これほど静希の心の中に入ってきたことは未だかつてなかった。


□■□


いつもどおりの昼休みが来た。

前の席で眠りこけていた本人は、昼休みを告げるチャイムと同時に起き出し購買部へ走って行った。

「河野、今日ずっと寝てたでしょ?」

河野は自分の椅子を静希側に向けながら、もうパンに噛り付いている。

「しょうがないじゃん。眠いんだからさ」

「そういう問題じゃなくてさ。授業中、ずっと寝たまま起きないから先生、ずっと不機嫌だったんだよ?つい

でに後ろの席の俺まで睨まれちゃうしさ」

「あぁ、それは悪かった。なるべく寝ないようにすっからさ。機嫌直せよ」

河野の屈託のない笑顔を向けられると、これ以上怒っても無駄かなと思ってしまう。

静希ははぁ、と大げさに溜め息をついて、しぶしぶ許してやるような素振りをしてみせた。

「しょうがないな」

こんな風に誰かと食事をしたり、まして軽口をいい合いながら会話をするようになるとは思いもしなかった。

ふと、静希はこういうものが友達なのだろうかと思った。

あれだけ友達を作りまいと言い聞かせていたのが嘘のようだ。

河野と付き合い始めて、他に友達と呼べる親しい人を作ったわけではないが、クラスメイトたちとはそこそこ

挨拶ぐらいはするようになった。

静希の中では劇的な変化だった。

学校に行けば、河野がいるから。

朝早く起きるのも、気だるい身体を叱咤するのも苦にならなくなっていた。

学校以外のプライベートまで仲良くツルむ気はなかったが、人と、河野と接することは思いもかけず静希の

凝り固まった心を解してくれた。

しかしながら、これ以上は親しくなれないときつく自制をかけることは忘れないが。

「あのさ、そこまで眠くなるくらいバイトしてるの?」

静希は自然と沸き上がってきた疑問を、河野に問いかけた。

「ん?まあな」

はきはきと喋る河野にしては、歯切れの悪い答え方だった。

静希は河野をじっと見つめ、尚も質問を投げかけた。

「どうして?」

「どうしてって。小遣い稼ぎのためだよ」

どうも嘘くさい。静希は視線はそのまま、今度は逃げはなしだよという意味合いを込めて口調を強めにして

食い下がった。

「それだけなら別に授業中まで眠くなるまでバイトしなくてもいいと思うんだけど?」

「まーなぁ。・・・聞きたいのか?」

「うん」

静希は即答でこっくりと頷く。

そんな静希に微苦笑を洩らし、河野はしぶしぶながら口を開いた。

「しょーがねーなぁ。静希の頼みだしな。俺はさ、男だけの3人兄弟なんだよ。しかも上2人はもう大学生だ

し。しかも2人とも私大なんだよ」

「うん」

「俺も大学行きたんだけどさぁ、親が金がないっていうんだよなぁ。だから大学行きたいんなら自分で稼げっ

てさ。兄貴たちは親の金でちゃっかり入っちゃってんのに。まぁ、経済的には厳しいって俺も分かっちゃいる

けどよ。不公平だよなー」

「すごい・・・。河野はちゃんと進学のためにバイトしてるんだ。見直したよ」

静希はもともと大きな瞳をさらに大きくし、羨望の眼差しで河野を見た。

「そんな見んなよ。照れんじゃん」

柄になく河野の目元が微かに高潮していた。

河野のそんな反応が珍しくて、ついつい笑ってしまった。

「河野、赤くなってるよ?大丈夫?」

「ちゃかすな、このヤロウ」

2人で終始笑っていた。

こういう関係がずっと続けばいいのにと思った。


□■□


静希は今日のお昼休みのことが、ずっと離れないでいた。

それから早速バイトだという河野を放課後、足早に教室を出るのを頑張って、なんていいながら見送った。

確実に、今日という日はいつもとは違っていた。

こんな些細なことが楽しい、と思ってしまった。

「静希?考えごとかい?」

父の、低音の声に我に返った。

今日もいつもの通りに父の寝室のキングサイズのベッドの上で、服を脱がせられ唇を激しく奪われていた

のだ。

やっぱり、今日はいつもと違っていた。

父との行為の最中、その行為そのものだけが頭の中を支配しているのに、今は河野とのことが頭で甦って

いたのだ。

それに気づいた時には遅く、静希を見る父の視線がとても冷めたものになっていた。

それを確認した途端、静希の背筋が凍った。

父がこういう目をした時は怒っている証拠。そうなれば、必然的にセックスも酷くなるのだ。

「あ・・・」

「あれほど友達など作るなといったはずだろう?」

「ち、ちがっ・・・友達なんて、できてな・・・ひぁっ」

和史はいきなり静希の性器を鷲掴みにし、手加減なしで上下に扱かれる。

「ぅあ・・・い、た・・・痛い、よ・・・」

苦しげに眉根を寄せた静希の表情を見ても、和史の表情は変わることはなく、逆に冷淡な笑みを薄く浮か

べるだけだった。

「ん・・・あ・・・ぃやぁっ・・・」

デリケートなそこはいくら感じやすいところだといっても、強く刺激されれば快感ではなく痛さに変わり反応

を示すことはない。

しかし、長きに渡る和史のサディスティックな責めで、静希の身体は与えられる刺激が多少強いものでも悦

楽に変えてしまう淫らな身体に開発されてしまっていた。

和史の痛いくらいの愛撫にも静希は確実に快感として受け入れ始め、くちゅくちゅと淫らな音を上げるまで

になった。

そんな淫猥な静希に、和史は酷く口許を歪めた。

「フッ。こんな淫らな身体をした人間を周囲が受け入れられるはずがない。身体の底まで静希を受け入れ

てやれるのは、この私だけだよ?」

「いや・・・こんな、の・・・んあぁ・・・」

静希自身を無視した、責める側の勝手に扱われながらのセックスはより心にひびを入れる。

静希は心の奥深くがつきん、と痛むのを感じた。

そんなこと、言われなくても分かっている。

自分の淫らさは、自分自身がよく理解していた。

こんな人には言えない性質を持った自分など、所詮誰も受け入れてくれるはずはない、と。

ふと、河野の顔が頭を掠めた。

河野だったら・・・。こんな俺を受け入れてはくれないだろうか・・・・・・。

愚問だった。答えなど分かってるはずなのに、微かな期待を持ってそんなことを考えてしまう。

急に哀しさと惨めさが込み上げてきて、強制的に思考回路から自分の意識を切り離した。

剣呑な光を目に纏わせる父に視線を向けた。

「俺、には・・・父さんしか、いない・・・からっ・・・許して・・・・・・」

静希の懇願に片頬を歪ませただけで、和史は尚も静希を痛めつける。

先走りの蜜が溢れてくる静希の先端に、爪を立てる。

その刺激に静希はびくんっと身体を震わせた。

「ひぁぁ・・・父、さんっ・・・」

「だめだよ、静希。今日は一回しか達かせてあげない。それとも、女のように射精しないで達ってみるかい

?」

和史のおぞましい提案に、静希は瞳を瞠り背筋を凍らせる。

「い、や・・・いやっ・・・ゆ、許して・・・」

弱々しく首を振り続ける静希を無視し、和史はベッドの脇に設けられたチェストの引き出しを開けた。

その様子を静希は蒼白な表情で黙って見ているしか、他なかった。
←back text