光の中 1





桜咲く4月。春の柔らかな日差しが眩しくて、思わず瞳を細めた。

周囲は妙に浮き足立っていて、真新しい制服に見慣れない校舎。自分を包むすべてが、例えそれが古

いものだとしても新しく感じて。新たなスタートラインに立った自分を大切にしようと、意気揚々と弾んで

いた。

それらすべてが、俺にとっては眩しくて。あの眩しい光の中に入りたくて。

おそらくあの眩しい光の中に入ったのなら、俺はすぐさま弾き飛ばされてしまうのだろう。

穢れた身体では、すべてが俺を否定するようで。

希望ある先に視線を向けた人々の中で、俺だけが何もない地面を見つめていた。


□■□


「あぁっ・・・ぁん・・・あ、あ・・・・・・」

静希は後ろの小さな器官を熱い男根を下から揺さぶられるように突かれ、男の腰を跨ぐような姿勢をと

らされていた。

「静希、高校はどうだい?友達はできたかい?」

静希はこの体位が嫌いだった。自分の体重も加わり、中の奥深くまで貫かれるこの体勢が酷く嫌いだっ

た。

それを知っていてこの人は、静希を下から容赦なく攻め立てる。

年齢の割には逞しい体躯をして、会社ではさぞ有能なんだろうなと思わせる風貌をしていた。

静希はこの人に抱かれ始めて、7年になろうとしている。

静希をいつまでも手放そうとはせず、執拗に静希を求めてくる。まるで静希だけは逃がさない、とでもい

うように。

年を重ねるごとに思い知らされる、この関係の不自然さ。それに気づいた時には、すべてが終わっていた



簡単に深い快楽へと突き落とされるたびに、静希は泣き、そんな静希の弱々しい姿を見てはこの人は

満足そうに呟くのだ。“愛している”と。

静希はすでに歯向かう気力さえ失っていた。

心が悲鳴を上げても、押し込められるようになっていた。その痛みに気づかないふりをしていた方が、平

和に生きていられると思った。

「静希?友達は、できたのかい?」

下から最奥を貫かれ静希の唇は喘ぎしか紡がず、頭をふるふると振ることで否定の意を示した。

そんな静希の反応に、満足そうに笑っていった。

「そうか。静希は友達なんて作らなくていい。父さんだけが静希を愛してやれるんだから。静希は私の傍

にいるだけでいいんだ」

静希を7年にも渡って犯し続ける父、和史は酷く愛おしそうに静希の背を撫でた。

「んっ・・・も、やぁ・・・父さ・・・」

和史の攻めは尚も激しくなり、静希の中のイイところを掻き回すように刺激した。

その強烈な刺激に、静希の紅く充血した蕾は無意識に和史のものを締め付けた。

「静希は素直でいい子だね・・・」

和史は抜き差しをより一層激しいものにし、絶頂が近いことを告げる。

「ひ、あ・・・あん・・・あぁっ・・・」

静希の悲鳴混じりの絶頂とともに和史は静希の中に断続的に精を吐き出し、萎えたそれをずるりと抜き

出した。

その生々しい感覚に、静希は身を震わせた。

「あ・・・」

これで終わる、と身体の力が抜けた途端、和史は静希を後ろへと押し倒した。

静希は仰向けにされ目の当たりにしたのは、未だに欲情の色を露わにした和史の顔だった。

「や、や・・・父、さん・・・・・・」

和史が精を放つまでに、静希は何度となくイかされていた。

高校生活という慣れない生活が始まり、肉体的にも精神的にも疲労の溜まった静希にはこれ以上の行

為は受け入れられるものではなかった。

「んっ・・・ふぁ・・・んん・・・」

静希の唇は和史に強引に奪われ、生温かい舌を侵入させられた。

これも、慣れた感触。

だからといって受け入れられるはずもなく、身体の奥深くを貫かれるよりもダイレクトに和史を感じざるを終

えないこの行為は、より静希を痛めつけた。

和史は思う存分に静希の口腔を嬲りつくし、そのまま首筋に舌を這わせ静希の細い鎖骨に歯を立てた。

和史は静希の、男を感じさせない華奢な骨格の一部である鎖骨を好んでいるようだった。セックスのたび

にそこに歯を立てられたり、痛いほどに吸い付かれるものだから静希の鎖骨は常に淫らな情事の跡を色

濃く残し消えることはなかった。

「ぃ、あっ・・・やぁ・・・も、無理・・・」

和史は萎えた静希を再び勃たせようと掌で扱き始め、もう一方の手の指を熟れ過ぎた静希の蕾に突き立

てた。

散々男根を含まされたそこは、何の抵抗もなくすんなりと節くれ立った指を飲み込んで見せた。

入れられた指を動かされるたびに静希の蕾からは、和史が放った精液は水音を響かせ溢れ出てくる。

静希の身体を知り尽くした男によって、静希のイイところを掠めるように刺激される。

その微かな刺激さえも、敏感な静希の身体は快感として拾ってしまう。

「静希は貪欲だね・・・。もう何度となくイっているのに、もう中が物欲しそうにひくついているよ?」

和史の笑みが残酷さを増す。

はっきりとした快感を告げるようになった頃、和史は再び熱い楔を開ききった蕾に突き立てた。

「ぅ、ああ・・・あ、やぁっ・・・」

底無しの快楽。

それは静希を地獄へ落とすかのように、溺れさせていった。


□■□


翌朝は酷くだるい身体を引きずって、つらい電車通学で登校した。

わざわざ電車通学を強いられる高校に入学したのは、勿論意図したことだった。

夜毎父に抱かれるあの家には、1分でも長くいたくはなかった。

家から歩いて10分程度のところに高校はあり、静希の学力ならば労せずして入学できる偏差値だった。

だが、これもひとえに家にいる時間を減らす為。

多少学力的に無理をしなければ合格通知をもらえないところだったが、静希は今の高校を目指すことに

決めた。

念願叶って入学した高校は授業内容も静希ならば対応できる範疇で、何ら困ることはなかったが、唯一

の誤算だったのが朝の電車のラッシュだった。

それは、前の晩に父によって散々弄ばれる静希には苦痛以外の何者でもなかった。

それに加え、痴漢の存在が静希を悩ませることとなった。

満員電車の中で、ここぞとばかりに静希は身体を触られる。酷い時では、大胆にもズボンの中にまで手

を入れようとした輩もいるが、それはぎゅうぎゅう詰めの中で必死に逃れて阻止して難を逃れたのだが。

男である自分が、そんな対象になることが情けなかった。

もっとも、7年にも渡って男を咥えさせられているのだから、何か、そういう触ってくださいとでもいうような

雰囲気を自分から出しているのかもしれないとも思った。

そう思えば諦めにもにた感情が湧いて出てきたが、不愉快なものは不愉快なもので。結局、不愉快な朝

のラッシュを防ぐ為、静希は電車の時間を早めることにした。

学校に着けば案の定、一番乗りの登校になった。

学校では、いつも本を読んでいるか教科書を開いているか、それか昼食を摂っているかの3つだった。

父にいわれなくとも、友人を作る気は更々なかった。

親しい人間を作れば、いつかは異常な親子関係がばれかねない。

それまでは上手く関係を築けていたとしても、静希の本当の姿を知ることになったら誰もが軽蔑するに違

いない。

もう、これ以上は傷つきたくはなかった。

友人を作って、いつ本当のことを知られないかと危惧しながら生活を送るなんてことはしたくなかった。

友人を作るという、自ら墓穴を掘るようなことは死んでも出来そうにない。

他人とは上辺だけ付き合っていければ、それでいいと思う。

寂しい人生だね、といわれても構わない。

それが自分の人生だし、そうでなければ平和には生きていけないと思った。

端から、幸せになろうとも考えていないのだから。

登校時間も残すところあと10分となって、ようやくクラスメイトたちが姿を見せ始める。

周りでは口々に挨拶を交わしたり、早速昨晩のテレビ番組の話などで盛り上がっている人たちもいた。

それでも静希は関係ない、と先日購入したばかりの文庫本に集中した。


□■□


ふと気が付けば、すでに昼休みに入っていたようだ。

教室内に残っている生徒はまばらで、多くの人は学食か、あるいは購買部に昼食を買いに出ていた。

静希はふっと溜め息をついた。人の多いところは嫌いだった。

人の少ない教室は、静希を安心させた。

静希は机の脇に掛けてある鞄の中から、弁当を取り出した。

忙しい朝にあり合わせのものだが、毎日静希は自分で弁当を作って持ってきていた。

そしていつものように、一人で弁当を広げた。

「お前、いっつもひとりなのな」

突然、頭上から聞きなれない声が降ってきた。クラスメイトたちとは殆ど会話を交わさないのだから、聞き

慣れないのも当たり前のことだったが。

遠慮のない言葉遣いに戸惑いを覚えながらも、静希は視線を上向かせた。

そこには高校1年生にしては背の高い、おそらくは上級生に目をつけられ易いがっしりとした体躯をした生

徒だった。

髪の毛はワックスか何かで立たせているのだろう。珍しく脱色されていない髪の毛が、ツンツンしていた



間違っても、静希と友達になるようなタイプには見えなかった。

「なんでいっつも一人なん?友達いねーの?」

物事をはっきりいう人だ。多分、嘘とか曲がったことが嫌いなんだろうな、と思わせるはきはきとした声音

をしていた。

「そうだよ。作る気もないから」

まさか静希の口からそんな回答が返ってくるとは予想していなかったようで、突っ立ったままの少年は一

瞬驚いた風だったがすぐさま笑顔に変わった。苦笑ともいえる表情だった。

「暗いやつだな。人生諦めたようないい方すんなよな」

その何気ない一言に、静希の心がふわっと温かいものが小さく広がったのを確実に感じた。

「そういう俺も昼食う相手がいないんだけどさ。一緒に食うべ」

にかっと笑って前の席の椅子を引き、静希の机に購買部で買ってきたのだろう、調理パンを並べた。

静希と向かい合わせに座り、早速といった感じにやきそばパンの封を切った。

大きく口を開け焼きそばパンに噛り付いた時、視線がパンから静希の弁当の方へと移っていた。

「やっぱ弁当なんだ。名前からして静希だもんな。焼きそばパンとか食べそうな雰囲気じゃねーもんな」

「え・・・?」

静希は目を見開いて、目の前の少年を見た。少年をすでに脱出した、大人の風貌を纏わせた容姿だった

が。

「え?って。クラスメイトの名前くらいは覚えたよ?しかも気づいてないようだけどさ、俺、お前の前の席に

座ってんるだぜ?」

気づかなかった。気づかなくて当たり前なのだが。

こうして話をするようになっては、相手の名前すら知らないとは失礼なことではないかと今更ながらに気

が付いた。

「えっ・・・と・・・?」

「河野雅也(こうのまさや)、覚えろよ?」

「うん。河野雅也ね。わかった」

「おう。よろしくな」

河野雅也の笑顔は爽やかだな、とふと感じた。

それからは河野が話題を振り、静希はそれに応えるような形で会話をしていった。

河野と話をしていく内に、河野はやはり曲がったことの嫌いな少年だった。

自分の意志をしっかりと持っていていいたいことはいう、という性格が短い会話の中でも汲み取れた。

まるで自分とは正反対の人間だと思った。

河野の人格が、羨ましいと思った。
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